職人

珈琲1杯が紡ぐ、函館愛と珈琲文化の可能性。珈琲文庫合同会社

私たちが向かったのは、函館市近郊にある、珈琲文庫合同会社の珈琲豆焙煎工場。扉を開けると、川崎さんと、温かい風にのって運ばれてきた珈琲豆の香ばしい香り、珈琲豆の焙煎音が出迎えてくださいました。珈琲文庫合同会社の驚きの創業のきっかけと、珈琲への思いの丈を伺ってまいりました!

さっそく、工場である建物の中を見せていただきました。

川崎:工場といっても、2階から4階が下宿になっているので下宿生の食堂も兼ねています。もともと蕎麦屋の店舗だったスペースを活用してるんです。奥が生豆倉庫と反対側の奥が焙煎室になってます。でも、写真も撮っても、全然映えない感じですよ。

ーふふふ。(率直な川崎さんの言葉に思わず笑ってしまう)

実際に、珈琲豆を焙煎している現場にも立ち会えました。

焙煎の過程で大切にしていること、毎日飲むものとしての珈琲とは

川崎:生豆倉庫から、生豆をここに運んで、豆を焼いてるんです。今まさに焙煎ドラムの中で、豆を焼いてるんですよ。少しずつ、様子をみながら、生豆を煎り、仕上げていくような感じです。3キロの生豆を投入して、仕上がるのは85%ほどの重さかな。100gの生豆が、だいたい85gぐらいに軽くなるんで。

ー水分が飛ばされて軽くなると。

川崎:そうです、そうです。そうすると、100gの生豆に対して、仕上がりが90gだったら、すごい煎りが浅いけど、80gだったら結構煎りが深いというイメージ。僕の中ではもう、豆の種類で、ある程度決まってて。例えば今、焼いてる豆の場合だと、81.8%から、82.3%ぐらいが、その基準点になっているんだよね。

ーその産地とか、農家さんなどで分けている。

川崎:そうそう、その生豆によって全部違う。

ーそういったことをこういう風に記録されて。(川崎さんが数値を記録しているノートを発見)

川崎:そうです、はい。

ーすごい、実験みたいですね。

川崎:そんな感じになっちゃってます。これは82.0%なんで、だいたい基準の真ん中ぐらいになります。それをずっとノートにおさめてて、だいたい何度くらいであげたとか、全部の記録を記入してるんですよ。これがね、もうノートで30冊めぐらいになる。もう10何年前ぐらいからやってるので。

ーそうですよね、2010年から(創業)ですよね、珈琲文庫さん。

川崎:はい、そうです。そんな風に豆を焼くような感じです。え、結局何を話せばいいですか?

川崎さんに、話す内容を聞かれてしまいました(笑)

ーあはは!核みたいなところにちょっと迫りたいなと思っていました。豆の重さなどを記録するといったことを実験的にいろいろ試されてると思うんですが、焙煎する過程で1番大切にしていることはどんなことですか?

川崎:焙煎することで大事にしていること。素材が、どういう物なのかっていうのを、すごい考えますその、生豆を焙煎による味の変化は味を決める上では一番大事だと僕は思っていないんです。やっぱり素材となる生豆が、素材がいいものなのかどうなのかということの方がすごく大事だと思っています。もちろん、その豆に合った焙煎はどういうものかというのは考えてますが、基本的には、生豆の品質が一番大事だと思います。生豆が、いい物かどうかというのをちゃんと判定して。その次にその素材に合った焙煎具合を見つけられるかどうかってのが大事かなって

ーなるほど。消費者やお客さまにどういった味を届けたいだとか、商品を通して何か伝えたい想いはありますか?

川崎:コーヒーって本来そんなに高いもんじゃないんです。だから、みんなが飲めるような価格ということも大事ですよね。気軽に飲める価格で、そのおいしさをどこまで引き上げられるのかというのは、すごく考えます。

ー川崎さんが考える、気軽に飲めるおいしさというものは具体的にどういうものでしょうか?

川崎:金額的なもの。

ーリーズナブルなものだったりとか。

川崎:そうです、そうです。僕的にはコーヒーは、毎日飲むものだから。

ーそうですよね。

川崎:ワインのように1ヶ月に1本しか飲まないんだったら、1本1万円とかでも、買って飲めるかもしれないですよね。だけど、僕はコーヒーは毎日飲むものだと思っているから。その生活の合間、合間にあるものだと思うんです。極端にいうと、1杯1万円もするようなコーヒーは毎日飲めない。だとしたらやっぱり、金額的には新聞代くらいになるのかなと考えています。新聞って毎日届いて1カ月に4000円くらい。コーヒーに置き換えてみると1週間に200g飲むとしたら、1か月で800gぐらいだから、4000円って考えたら100gで500円ぐらいがリミットだなって思っています。

ー相当リーズナブルですね。

川崎:そう。だから、低価格でもどのくらいおいしさを引き上げることができるのかって考えます。少しでもね。

ーサイトを拝見して、珈琲は生活の脇役っていう言葉を拝見しました。

川崎:ああー、そうです、まさに。

ー本当に言葉通りだなって、今感じました。

川崎:珈琲は主役じゃないですよ。ワインって、それ自体が主役になるかもしれないし。レストランで食べる料理って、それ自体が、主役だと思うんですよ。コーヒーって、そういう飲み物じゃないじゃないですか。

ーもっと生活に寄り添う飲み物だと、川崎さんは考えているんですね。

理想の珈琲に出会うまでのこだわり

川崎:ここが生豆の倉庫になってます。いろんな国の生豆たちがありますよ。これが麻袋なんですけど。

ー珈琲豆は麻袋に入ってるイメージがあります。

川崎:今は、真空が多いんですよ。時代が変わってしまって。その国がどのぐらい豊かなのかってのにもよるけど。基本的にはもう今、価格が高い物ってみんなもう真空で配送されます。

ーそうなんですね。何種類の豆が倉庫にあるんですか?

川崎:仕入れているのは20種類くらいあります。もっとあるかな、25くらいあるかな。でも、ガテマラ1つ決めるのにサンプルがいっぱいあるんです。

ーこのサンプルは送られてくるものですか?

川崎:そうそう。サンプルを取り寄せて。スマホで管理できる焙煎機を使って味を確かめるんです。湿度や時間なんかをプログラムをした焙煎機を使うのは、みんな同じ条件で焼けるから。

ーすごく実験的ですね。

川崎:このサンプルロースターで、全部の種類をカッピング(試飲)するんです。全部同じ条件で抽出したものを飲んでみて。その中で一番良かったものを、決めるっていうやり方をしてます。品種ごとに、モカでも、ガテマラでも、コロンビアでも、みんなそういう風にして、サンプルで取り寄せたもので、よかったものを製品化していくっていうやり方をしています。

ーこういった豆って、年間でどのくらい見られているんですか?すごい数ですよね。

川崎:そう、もしかしたら100ぐらい、サンプルで見ているかもしれないですね。

ーその中から、この20種類が。

川崎:そうですね。他社からの依頼で製品を作る時も、必ず一緒にカッピング(=試飲)します。その過程でそれぞれの好みを知ることができるんです。そうした蓄積があるから、僕だったらたぶん、好みの味を再現できると思っています。依頼者と一緒にカッピングしてこういうのが良いとか、ああいうが良いとか言いながら、味を再現してあげるんですだから、その人が作りたいものをダイレクトに表現できると思っています。そういうやり方もすごくあるかなと思います。

ーカッピング(試飲)は具体的にどう行うんですか?

川崎:試飲ですよね。カップの中に、珈琲の粉だけ入れて。そこにドボドボとお湯注いで、そのまま粉だけとって飲むんですよ。そうすると抽出のブレがないから。みんな同じような条件で味を比べることができるんです。ロカラさんで、カッピングしてコーヒー作るんですよね?中川さん?

中川さん:やんないですよ。笑

川崎:なんだ、前話したじゃないですか。今度また、別で話しましょう!

一同:あはは!

珈琲文庫のこれまでの歩みと、これから。ー製造過程での揺るぎない軸、広がる未来の展望。

ー珈琲文庫の名前の由来や、作っている製品のお話を聞かせてください。

川崎:珈琲文庫の名前の由来。僕の友達にデザイナーをやっている人がいて、昔は友達のバンドのロゴ作ってたりしてたんです。学生の頃、そのデザイナーも当時まだ無名だったのですが、僕が珈琲屋をやるとしたらどんな店名をつけてくれるっていう話になったんです。

そんなことやってくれるかなって頼んでから、それから半年ぐらいかけて、僕のコーヒーにまつわる話や、僕が生まれてから今までコーヒーに触れ合ったこと全部書き留めて、メールで送ったんです。それこそ原稿用紙で言ったら100枚ぐらいの文章を。

ーすごい。

川崎:その文章を読んで、その時に彼が「珈琲文庫」という名前を付けたんです。それは、僕が珈琲のことを話すときに、物語のように珈琲の話をしてくれるから。文庫本のように、そういうようなところを考えて作ってくれたんです。だからあのようなロゴをこう。

ーなるほど、だから文庫本のようなデザインなんですね。

川崎:僕はブレンドしないで全部ストレートでやるんだけど、どうしてストレート単品でやるかっていうと、最初からカテゴリーを6個ぐらいに分けているんです。そのカテゴリーの中に、その生豆がこういう味だったらいいんじゃないかって当てはめていく。その1つ1つにタイトルみたいなのを、そのコピーライターが考えたり。そういういろんな事をやってできたんです。

ー珈琲豆が持つ物語も一緒に届けるような、そんな発想なんですね。

ー焙煎やデザインの過程で、譲れないもの、こだわりみたいなものはどんなものですか?

川崎:やっぱり、さっき言ったように生豆の質はどのぐらい高いのか。本体の金額は変わらないけど。仕入れるときに常に考えるのは、僕にとってそのすべてなのは生豆の質ですね。 やっぱり、いろんなサンプルとって、自分が選んだ、生豆を、自分が考えて、煎り豆にしていくっていうことと一緒に考えて、決めた味に、僕はどう再現できるかっていうところが一番大事なところだなって。それは、素材と味づくりみたいな。

ーやっぱりその豆を、いかにその飲まれる方の望む味にしていくかという過程がすごく大事なんですね。

川崎:はい。そうです、過程が大事なんです

ーコーヒー作りの過程で、大変な工程などはありますか?

川崎:まず大変なのは、やっぱり素材を決めることですよね。素材決めるのは正直すごく面倒くさくて。カッピング(試飲)も1回じゃ決められないから。2回も3回もやって、決めなきゃいけないしね。

ー豆を選ぶ中で、生産地や農家さんへのこだわりはありますか?

川崎:結局、コーヒーって、生産地が遠いから農家さんと密な関係を持つことが難しいんだよね。僕も、ハワイの農園とか見に行ったことあるけど、人生で何回行けるかみたいな感じですよね。そんなに頻繁に行けないのが現状。

ーそうですよね。

川崎:レストランでは、無農薬の野菜を使っているって言うんだったら、近場でそういう生産者がいるというのが一番大事だと思うんだよね。近場の農家さんに行って、話を聞いたり、収穫を手伝ったりすることもできるかもしれない。

でも、コーヒーは産地も遠いし、そもそもそういう食料品じゃない。だから、誰それの作ったコーヒーだから、良いと言い切れない部分があるんです。言いたいけど、言えない。それでいて、年に1回産地を見に行ったからといって、そのコーヒーのことをどのぐらい理解できるかと考えると、ほんの少しのことだけだと思います。その状況のなかで、何が一番大事かっていうと、生産地を知ってる、商社の人信頼できる商社の人と、かかわれるかどうかだと思うんです。僕が今こうしたやり方をできるかっていうと、そういう人との繋がりを持てたからなんです。僕は20年ぐらいコーヒー業界にいて、その時出会ったのが、日本で一番、世界で一番大きい生豆商社の人。その人はその会社の日本法人の味の責任者で、スペシャリティコーヒー(おいしいコーヒー)は全部その人が決めています。そのくらい、信頼できる人がいる。

ーその方との信頼関係があるから。

川崎:その人のコーヒーへの愛がすごい。その人が選ぶ生豆から、さらに絞り込んでるって感じです。

ーその方が選んだ珈琲豆だからこそですよね。

川崎:そうですね。いずれは、生産地に足を運んだりそういうことしたいですけど、まだ生産者までは、深く関われないですね。やっぱり、そういうのを知ってる商社の人。横の関係を築くことが一番だから。

ー先ほど生産者の方にまでという展望のようなものを聞かせていただいたのですが、今後の夢や野望みたいなものもぜひ聞きたいです。

川崎:あはは、夢。本当に、コーヒーを育てたいです。函館でそうなったらすごいなあ。ハウス作ってソーラーパネルを積んでみたいな感じでできたらいいなと!日本に最初の頃に入ってきた苗木を使ったりとかして、函館でコーヒーを育てられたら嬉しいなと思ってますとにかく、ちょっとでもいいから、全部自分の力でやりたい。ちょっと夢大きいですね。

ーそんなことないと思います!

12年間、川崎さんとともに多くの珈琲豆を焙煎してきた焙煎機。焙煎機についても展望があると川崎さんは語ります。

川崎:こう、それで今、焙煎機も自分で作ろうと思ってて。

ー焙煎機も!

川崎:だいたい図面が出来上がってきたんです。

ー自分で焙煎機を作ることで、どういったことが自分で調整できるようになるんですか?

川崎:なんかね、言うと長くなっちゃうけど。

自分には珈琲豆への好きな火の当て方があるんです。その火の当て方を、自由度が高く設定できるものなんです。珈琲屋さんにもタイプはいろいろあると思うけど、僕は、自分がおいしいと思ったものをお客さんに飲んでもらいたいというよりも、その人が、本当においしいものを作ってあげたいと思っているんです。それを実現させるにはいろんなやり方がきっとあると思うんですよ。

ーきっといろんなやり方が無限にありますよね。

川崎:かつては函館どつくで造船業に就いて、やめてからはいろんなベンチャー企業に働いた人が、僕の親戚のおじさんにいるのね。

ーああ、ここでも繋がりが!

川崎:そう。函館どつくからをやめてからも、いろんなことをやって。最終的には中国でロボット作ったりするような、設計ができるおじさんがいるんです。その人が、いつかまた造船の仕事をやりたいという話をしたことがあるんです。僕は、造船は無理だけど、退職したら一緒に焙煎機作ろうって話したんですよ。

ーへえー!

川崎:それが、10年くらい前の話だったね。その人が退職して、去年の春ぐらいから本格的に動き始めたんです。函館に十字屋という珈琲屋さんがあるの知っています?その十字屋のものすごい古い焙煎機があるんだけど、その焙煎機をベースに、鉄の鋳物のとよかった素材の部分だけを残して、あとはもう根こそぎ全部変えて作るんです。

ーその焙煎機には十字屋さんの歴史の一部も入っているんですね。

川崎:それももう、60年ぐらい前のものかな。

ー本当に珈琲文庫さんでしか作れない珈琲になりそうですね。

川崎:この火の当て方を、いろんなタイプの火の当て方ができるようにして。それが例えば十字屋だったら、こんな味なんだとか。僕は僕で、自分の味づくりするけど、一緒にカッピングしながら決めていきたいよね。この一番中核になるバーナーの試験を、来月やるんですよ。バーナーだけ取り寄せて、その火の出方や火の当たり方はどうなんだろうっていうのを試すわけで。それはもう、楽しみですよね。それが直近の展望というか。

函館への変わらない想いと、移り変わり、進化していく珈琲づくり。その原点となった、創業のきっかけとは

ーこうしたものづくりや珈琲を通して、地域への想いや伝えたい想いはありますか?

川崎:生まれも育ちも函館で、20年ぐらい離れていたけど、また戻ってきて。本業は不動産屋だけど、珈琲の仕事もやっています。函館に戻ってきたのも函館が昔からすごい好きだったし、函館でずっと暮らそうと思ったからなんです。

ーそうなんですね。

川崎:安心して気軽にガブガブ飲めるコーヒーが、どのくらいのクオリティーまで上げられるのかっていうのは、すごい考えてて。基本的には、地元の人が飲むコーヒーを作りたい。

ー地元の人に飲んでほしいんですね。

川崎:はい。

ー焙煎機や珈琲の栽培の他に、何か挑戦したいことはありますか?

川崎:いろんな人の珈琲を作りたい。例えば、新しくお店やりたい人とかの珈琲もそう。だけど、焙煎機を自分で買うということはお金もかかるし、自分で訳もわからずにやるんだったら、相談してもらえたら嬉しいなって。そうすることで、その人が、売りたい珈琲って何なのかっていうのを、探すとこから一緒にやりながら作っていきたいですね。

ーうんうん、それを会話で探っていくんですね。

川崎:カッピング(試飲)して、コーヒーを実際に一緒に飲んで、いろいろ試しながら、好きな味を見つけていく共同作業のような感じかな

ー感覚を共有してみたいな。

川崎:そうですね。それはすごく大事にしてますね。

ーコーヒーをいろんな方に飲んでいただいて、一番何を感じていただきたいですか?

川崎:コーヒーって、苦みを求める飲み物ではあると思うんだけど、その中に、やっぱり果物を連想させるような、華やかさとかがあるんですね。その素材の良さのようなものを、みんなに感じてもらえるようになれば、もっといい商品が、もっと安く流通するんじゃないのかなって思います

ー浅煎りは酸味が強くてとか、そういう典型的な話だけでとどまってしまうともったいないですよね。

川崎:そうですね、はい。なんか本当に、もっと素材の良さみたいなのを絶対引き出したい。

ーやっぱりそこに絶対に価値をおきたいと。

川崎:そうですね。

ー創業して12年間、どんなことを積み重ねてこられましたか?

川崎:僕もともと珈琲豆の配達だけだったんですね。自分が飲むためだけに釜買ったんで

ーそうなんですか!

川崎:そうなんです。だから、自分でいいものを仕入れて。10年で元取れるなと思って買ったんです。最初は自分で飲む分だけを焙煎しているうちに、人に頼まれるようになって、お店の人と出会うことが増えてきました。そうすると、お店で出す珈琲を作って欲しいという声がチラホラ増えて、だんだん広まってきたんです。今でも、自分では、珈琲を飲んでもらうお店を持ってないですけど、酒屋さんやヒュッテというパン屋さんでも、コーヒーを置いてくれたりして、それでだんだん広がっていっていきましたね。

ー口コミでじわじわと。

川崎:だから、そういうことを積み重ねてきたこともあって、珈琲を間に入れて、人との信頼関係を築いてるみたいな感覚はあります。だから、自分のコーヒーだから、そうやって扱ってくれてるんだと思うし。珈琲という商品を挟んでるけれども、人間関係を積み重ねてきてるのかなって思います。

ー2010年から始められて今まで作ってこられて、変化などはありますか?

川崎:最初は、ちょっとこう、素材感をすごく出したくて。

ー素材感。

川崎:最初の頃って、函館の人って、魚、いい魚入ると、絶対刺身で食べたがるじゃないですか。

ー確かに。

川崎:なんでかって言うと、もったいないって言いますよね。

ーああ、言います。

川崎:そう。だから、焼かないんですよ。とれたばかりの魚を。

ーとれたての魚はすぐさばいて。

川崎:そう。焼いて、食べないわけです。でも、焼いて食べても絶対美味しいはずなんです。それと同じように、僕も昔は、その良い素材が入ってくると、素材を生かすためにあまり焼きたくない思ってたんです。だから、煎りが浅くなるわけですよ。素材感を出して、もう、ちょっとすっぱいコーヒ―みたいな感じを好んでました。でも、最近少しずつ変わってきたんです

コーヒーはある程度、濃くて、苦みがあるものという感覚も持ち始めたんです。だから、そういう意味で言うと、素材感を、あんまり出し過ぎないようになってきたというか。ちょっと感覚的には大人になってきて、あまりマニアックな線に走らないようになってきました。

ー変わったのはいつ頃だったんですか?

川崎:やっぱり少しずつだと思います。5〜6年ぐらいかな。いい素材ばっかりが、次々入らなくなってきた頃だと思うんですよ。

ー素材の味だけではどうにもならなくなってきたと。

川崎:なんかそんな感じします。

ー素材だけではどうにもならなくなってきたこと、値段が高騰してきたこと。12年間の過程で、自分の趣味や特技がそういったことを克服するのに役に立った経験はありますか?

川崎:僕は、ずっと珈琲屋にいたんだけど。家業は不動産業なんです。函館に帰ってきて家業を継いだわけだけど、古い家をリフォームして販売したりすると、いろんな業種の人に出会うんですよ。家を売る人たちと触れ合ったり、職人さんと出会ったり。焙煎工場を作る時にそうした人たちからたくさんアドバイスをもらうことがあったんです。そういう意味ではフィールドは違えど、不動産業とか、かかわった人たちが、いろんな知識を教えてくれて。あ、こうすればいいんだっていうような、すごく、それは勉強になりましたね。

ー本業の繋がりが生きているんですね、おもしろいですね。

珈琲文化からはじまる、地元愛の醸成。

ー最後に、川崎さんが感じられている、函館の食の魅力や珈琲の可能性をお聞きしたいです。

川崎:函館は、水産業にも農業にも、すごい人たちがいっぱいいるんですよ。知り合いの中にもそんな人がいっぱいいます。飲食店、レストランをやってる人は、昔からいいものを食べているから、本質的に函館の魅力を色々と知ってると思います。だけど、函館に住んでる人には実は知られてないので、函館が魅力的な町だという評価をしてないじゃないですか

ーそうですね。

川崎:あんまり、函館のこと好きじゃない。じゃそれで、駄目だなって思うんです。函館のことをすごく好きでいられるようなものは、実は探せばいっぱいあるんですから。

ーあります、本当にそう思います。

川崎:だから珈琲を通じて、その魅力のひとつに入れたらいいなって思っています。函館の人は身近に美味しいものがある分、家庭に出てくるもの自体が良いものということも経験として多いはず。珈琲もそうだと思うんですよ。いいものさえちゃんと提供してれば、ちゃんとそれを受け入れるような土壌は、函館の人は持ってると思っていますそこにこう、自然に入って行きたいなと思ってるんです

都会の人みたいにね、高価だからよいものという感覚ではなく、自然に、家庭に溶け込んでいけるくらいのものを作って、函館ではインスタントコーヒーを飲むのではなくて、自然においしいレギュラーコーヒーを飲むというような世界観をつくりたいですね。良いものを受け入れる体質も持っているので、実現できたらすごくいいなと思います。

ーやっぱり、生活に寄り添うコーヒーなんですね。

川崎:焙煎所は、下宿のキッチンも兼ねているから、そこでもちゃんとしたマシン置いて、ここのコーヒーを下宿生に出して美味しい珈琲を飲んでもらおうと思っていて、それをこの春から始めるんです。

ーおおー!そこから珈琲文化醸成の種まきをしていくんですね。

川崎:学校、大学を出た後で、下宿にいたことで、なんかちょっとコーヒーのことをわかって出ていくと。

ーここに住むからこそできる種まきですよね。

川崎:はい。

ー素敵ですね。私もここ1年くらい意識して飲むようになったのは、自分が住んでいる環境が強く影響したことを考えると、やっぱり周りの環境はすごく大事だなと思います。

川崎:そうですよね。絶対函館には、そういう人いっぱいいると思うんです。函館という町自体が住んでる人にそういう評価をされてないのが残念だなと

ーそうですよね、来てくれる人の方が良い街だよねって言ってくれるけどっていうのはすごく感じます。

川崎:そうですよね。そこをなんとかできればいいんだろうなと。

ーそうですよね。ありがとうございました!

編集後記

私にとって、ロカラ所属ライターとして初めての取材先になった珈琲文庫合同会社さん。当日集合場所に向かい、川崎さんと合流し、取材開始。そんな順風満帆な取材風景を描いていましたが、そうはいかないのが世の常。川崎さんは集合場所ではなく、ご自身の焙煎工場にいらっしゃるらしく、急遽そちらへ車で向かうことに。そこに向かう車内で、程よく緊張をほぐせたので、結果オーライ。ちょっとしたハプニングも含めて楽しい取材でした(笑)

小さい頃から私は、珈琲が好きな父のもとで育ちました。珈琲の香りを嗅ぐといつも心が安らぐのは、きっとその香りに満たされた、懐かしくあたたかい記憶があるから。取材時に珈琲豆の焙煎の香りに包まれ感じた安心感と、同時に湧き上がった高揚感やわくわくをお届けできたら、と思い編集しました。

取材時、目の前で珈琲豆のサンプルの話を楽しそうにされる川崎さんのお話を伺いながら、函館の珈琲文化の芽生えがじっくりと始まっていく機運の高まりを感じました。取材を経て、自身が口にする珈琲の香り・味がどんなものかじっくり味わいつつ、珈琲の淹れ方や自分の好みについてもより考え、自分のペースで深堀りしてみたいと思うようになりました。最後になりますが、貴重なお時間を取材に割いてくださった川崎さん、関係者の皆さま、本当にありがとうございました!

ABOUT ME
楢館 茉奈
生まれも育ちも函館、食べることに目がないライター楢館 茉奈です。谷地頭にあるきらく荘に住みながら、函館の魅力をさまざまな角度から紡ぎます。趣味はカフェ巡り、占い、音楽鑑賞、読書。函館周辺の行ってみたい場所が増え続けることに嬉しい悲鳴をあげる日々です。